動作から考える住まいづくり1|和式トイレと片麻痺:移動と方向転換から考えるトイレ改修の考え方

代表の得本です

このブログでは、動作の視点から住まいづくりを考える内容を、不定期で発信していきます。

実際の疾病や身体の状態をもとに、架空の住宅や生活状況を想定しながら、日々の暮らしの中で感じやすい負担やその整え方について整理していきます。

まだ試行錯誤しながらの発信にはなりますが、温かく見守っていただけますと幸いです。

また、連載を通じて、このブログをご覧いただいた方の暮らしに少しでも役立てば嬉しく思います。

この記事でわかること

  • 和式トイレで負担になりやすい動作
  • 移動や方向転換がしにくくなる理由
  • 動き方に合わせたトイレ改修の考え方

【ケース1|和式トイレと左片麻痺

築40年の木造戸建にお住まいのご夫婦のケースです。まずは、トイレの配置を見てみます。
一見すると問題なく使えているトイレでも、身体の状態が変わることで危険な空間に変わってしまうことがあります。

和式トイレと小便器が分かれた、昔ながらのつくりです。
それぞれのスペースが分かれていることで、トイレ内での移動や方向転換の動作が多くなりがちな配置です。
手洗い自体は近くにあり、その場で行うことができますが、トイレ全体としては移動や出入りの動作に負担が出やすい構成になっています。
一見すると使えてるように見えますが、実際の動きを考えると、負担や危険につながる要素がいくつか含まれています。

 

【現在の生活】

ご主人は脳血管疾患による左片麻痺があり、現在は杖を使いながら生活されています。
日常生活はある程度ご自身で行えますが、細かな動作では少し不安が残る状態です。
前提としては、以下のような状態です。
・屋内外の移動:杖歩行
・トイレ動作:自立(手すりがあれば安心)
・入浴・着替え:軽介助
・左手:動くが握力は弱い
・左足:方向転換時にやや不安定

 

【日常の困り事】

現状のトイレは、一見すると使えているように見えますが、実際の動きを考えると、いくつかの負担が重なっています。
まず、出入口が開き戸のため、出入りの際に一度後ずさりする動きが必要になります。片麻痺がある状態では、この後退動作で姿勢が崩れやすく、転倒のリスクにつながります。
また、トイレ内には小便器や間仕切りがあるため、移動のたびにそれらを避けながら動く必要があり、動線が複雑になっています。さらに、和式便器のしゃがむ動作自体も身体への負担が大きく、特に片側の支えが弱い状態では不安定になりやすい動きです。
加えて、空間が限られているため、万が一の際に介助に入るスペースが確保できないという点も大きな課題です。

見えてきた負担

  • 出入りのしにくさ
  • トイレ内での動線の複雑さ
  • しゃがみ動作と介助スペースの不足

【問題の本質】

問題を整理すると、個別の不便さもありますが、「動作の流れ」が分断されていることが大きな要因です。
出入り、移動、しゃがむ動作、それぞれが独立して存在しており、その都度、体の向きを変えたり、位置を調整したりする必要があります。
特に片麻痺がある場合は、安定して支えられる側が限られることや、方向転換や後退動作でバランスを崩しやすいといった特徴があるため、こうした動きの積み重ねがそのままリスクにつながります。
また、空間に余裕がないことで、動きを補う余地や、万が一の際の介助の余白も確保できていません。
ここでの課題は、個々の設備と「動作の流れに合っていない空間構成」にあると考えられます。
つまり、「動きにくい空間になっている」ということです。

✓ ポイント|左片麻痺とトイレ

  • 和式から洋式にするだけではなく、動き方に合わせて考える
  • 出入口、手すり、手洗いの位置が大切
  • 介助スペースも含めて検討する

 

【改善の考え方】

今回のようなケースでは、個別の設備を入れ替えるだけではなく、動作の流れそのものを整えることが重要になります。
具体的には、出入りからトイレ動作、手洗いまでを一連の動きとして考え、体の向きを何度も変えなくていい配置にすること、安定して支えられる側で動作が完結するように整えることが必要です。
また、片麻痺の場合は、「できる動作」よりも「安定してできる動作」を基準に考えることが大切です。
そのため、無理に動きを増やさないこと、動作の途中で姿勢が崩れないようにすること、万が一の際にも対応できる余白を確保することといった、安全側の設計が重要になります。

 

【改修内容】

動きやすくするための改修内容

  1. 出入口は開き戸から引き戸へ変更し、出入り時の後退動作をなくす
  2. 小便器と間仕切り壁を撤去し、2つの空間を1つに統合
  3. 動線に合わせて手すりを配置し、移動と立ち座りの両方をサポート
  4. 和式便器から洋式便器へ変更し、しゃがむ動作の負担を軽減
  5. 手洗いは入口側へ配置し、移動や方向転換の負担を減らす
  6. 人感センサー付き照明を設置し、夜間時の安全性に加え、スイッチ操作をなくすことで余計な動作を減らす

それぞれの要素を個別に考えるのではなく、一連の動作として整えることが重要です。

 

【改善後のイメージ】

Before

改修前のトイレイメージ

改修前のイメージ

  • 手すりなどの支えがなく転倒の危険性
  • 狭い空間での立ち座り動作が必要
  • 冷たく滑りやすい床

After

改修後のトイレイメージ

改修後のイメージ

  • 動作に合わせた手すりの設置
  • 立ち座りが楽な洋便器と介助スペースの確保
  • 滑りにくく寒くない床と断熱窓の設置

  

【まとめ】

今回のケースでは、出入りの動作、トイレ内での移動、和式便器での動作、空間の狭さといった要素が重なり、動作のたびに負担やリスクが生まれていました。

そのため、便器だけ、手すりだけ、出入口だけを個別に考えるのではなく、「トイレに入る・移動する・用を足す・手を洗う・出る」という一連の流れに合わせて空間を整えることが大切です。

 

この記事のまとめ

  • 和式トイレを洋式にするだけではなく、動き方に合わせて空間を整えることが大切です。
  • 出入口の形、手すりの位置、手洗いの場所によって、使いやすさは大きく変わります。
  • 実際の改修では、身体の状態だけでなく、ご本人の動き方や介助の有無、住まいの条件も合わせて考える必要があります。

 

【最後に】

住まいの中で行う動作は、日常の中では当たり前のものです。

だからこそ、その一つ一つに無理があると、気づかないうちに負担が積み重なっていきます。今回のケースも、もともとは当時としては一般的なつくりで、これまで問題なく使うことはできていました。

ただ、今ではこうした形は少なくなり、身体の状態が変わることで、これまで出来ていた動きが少しずつ負担となり、結果として危険につながる場面が生まれてきます。このように、動作の流れを見直していくことで、「頑張らなくても使える」住まいに近づけることができます。同じ片麻痺でも、状態や生活の仕方によって必要な整え方は変わります。

また、実際の現場では間取りやスペースの取り方によっても、ご提案できる内容や改修方法は大きく変わってきます。「今はまだ大丈夫」と感じている段階で見直すことが、安心につながることも多いです。

今の暮らしに少しでも不安を感じることがあれば、無理のない範囲で見直していくことが大切だと思います。気になる点があれば、お気軽にご相談ください。

最後までお読みくださりありがとうございました!

補足

今回の記事では、下記のような日常生活動作(ADL)の状態を想定して内容を整理しています。

今回のケースにおけるADLの想定

今回のケースにおけるADLの想定

今回の内容は、架空の住宅や生活状況を想定した一例です。実際の改修内容は、身体の状態や住まい方、現場状況によって変わります。

       

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