動作から考える住まいづくり2|寝室からトイレまでの動線とパーキンソン病:移動から考える廊下改修の考え方
代表の得本です
このブログでは、動作の視点から住まいづくりを考える内容を、不定期で発信していきます。
実際の疾病や身体の状態をもとに、架空の住宅や生活状況を想定しながら、日々の暮らしの中で感じやすい負担やその整え方について整理していきます。
まだ試行錯誤しながらの発信にはなりますが、温かく見守っていただけますと幸いです。
また、連載を通じて、このブログをご覧いただいた方の暮らしに少しでも役立てば嬉しく思います。
この記事でわかること
- パーキンソン病の「すくみ足」が住まいの中で出やすい場面
- 寝室からトイレまでの移動で負担になりやすい動作
- 夜間も一人で安心して移動できる動線改修の考え方
【ケース2|寝室からトイレまでの動線とパーキンソン病】
築46年の木造戸建てにお一人でお住まいの、男性のケースです。今回は寝室からトイレまでの動線を見てみます。
日中は問題なく行き来できている廊下でも、身体の状態が変わることで、夜間には思わぬ負担が生まれることがあります。
寝室からトイレまでは廊下で一直線につながっており、距離としては決して遠くありません。
ただ、昔ながらのつくりのため、寝室・廊下・トイレのそれぞれの出入口は開き戸で、和室との取り合いには段差が残っています。
廊下には移動を支える手すりなどの支持物はありません。
この住まいの現状
- 各出入口に残る段差
- 開き戸中心の建具
- 移動を支える手すり等の不在
【現在の生活】
男性にはパーキンソン関連疾患(軽度)(以下、パーキンソン病)による身体状況があり、手のふるえ(振戦)や、足が床に張り付いたように一歩目が出にくくなる「すくみ足」が見られます。
日常生活の基本的な動作はご自身で行えていますが、細かな動作には時間がかかり、移動には少し不安が残る状態です。
以下に現在の状態(ADL)を整理します。
現在の状態(ADL)
- 屋内外の移動:屋内は伝い歩きで自立/屋外は杖歩行(すくみ足あり)
- トイレ動作:自立(立ち座り時に注意)
- 入浴・着替え:自立(動作に時間を要する)
- 手の状態:振戦があり、細かな操作に時間がかかる
- バランス:やや不安定(方向転換時に注意)
【日常の困り事】
寝室からトイレまでの動線は、短い距離ですが、実際の動きを追うと負担がいくつか重なります。
まず、基本的な動作は自立しているものの、ふらつきや振戦の影響で、一つ一つの動作に時間がかかります。開き戸の開け閉めのように「立ち止まって手元を操作する」動作は、特に負担になりやすい部分です。
また、すくみ足が顕著に出ており、動き始めや方向転換、そして夜間の暗い廊下など、不安を感じる場面で足が止まりやすくなっています。
さらに、お一人暮らしのため、夜間に見守りや手助けをしてくれる方がいません。移動の途中で足が止まっても、支えになるものがない状態です。
△見えてきた負担
- 出入口ごとの段差
- 開き戸の開閉にともなう動作の多さ
- 移動時の支えとなる支持物の不在
【問題の本質】
問題を整理すると、個別の不便さもありますが、「動作の流れ」が細かく分断されていることが大きな要因です。
扉を開ける、段差を越える、向きを変える。寝室からトイレまでの短い距離の中に、こうした動作の切り替えが何度も挟まっています。
特にパーキンソン病の場合は、動作の切り替えのタイミングや、不安を感じる場面、暗い場所などですくみ足が出やすいという特徴があります。動作が増えるほど立ち止まる機会が増え、そのたびに転倒のリスクと隣り合わせになります。
また、廊下に支えがないことで、足が止まったときに姿勢を立て直す拠りどころがなく、夜間はその不安がさらに大きくなります。
つまり、「すくみ足が出やすく、頼れる支えのない動線になっている」ということです。
✓ポイント|パーキンソン病と寝室からの動線
- 短い距離でも動作の切り替えが多い動線
- とっさの時に頼れる支えがない環境
- 介助者が不在で、一人で全てを完結する必要
【改善の考え方】
今回のようなケースでは、個別の設備を入れ替えるだけではなく、動作の流れそのものを整えることが重要になります。
具体的には、寝室を出てからトイレを済ませて戻るまでを一連の動きとして考え、動作の切り替えをできる限り減らし、動きが途切れない動線にすることが必要です。
また、パーキンソン病の場合は、「できる動作」よりも「安心してできる動作」を基準に考えることが大切です。すくみ足は不安を感じる場面で出やすいため、支えがあること、足元が見えること、段差がないことといった「安心の材料」を動線に沿って用意していきます。
そのうえで、お一人暮らしでも夜間の移動が一人で完結できるよう、安全側の設計を心がけます。
✓ 改善の方針
- 寝室からトイレまでを、安心感を持って移動できる動線にする
- 動作の切り替えを減らし、動きを止めない
- 夜間でも一人で完結できる環境を整える
【改修内容】
動きやすくするための改修内容
- 出入口は開き戸から引き戸へ変更し、出入り時の後退動作をなくす
- 廊下全体を嵩上げし、各出入口から段差のない計画とする
- 移動・動作時に支えとなる手すりを動線に沿って配置する
- 床材は滑りにくい素材を採用し、転倒の不安を解消する
- 夜間の足元の見えにくさを解消するため、足元灯を設置する
それぞれの要素を個別に考えるのではなく、寝室からトイレまでの一連の動作として整えることが重要です。
【改善後のイメージ】

【まとめ】
今回のケースでは、出入口ごとの段差、開き戸による動作の多さ、支えの不在、夜間の暗さと不安感といった要素が重なり、移動のたびに負担やリスクが生まれていました。
すくみ足は、不安を感じる場面で出やすくなると言われています。だからこそ、扉だけ、段差だけ、手すりだけを個別に考えるのではなく、「寝室を出る・廊下を移動する・トイレに入る・用を足す・寝室へ戻る」という一連の流れに合わせて空間を整えることが大切です。手すりは体を支えるだけでなく、すくみ足が出たときに「次はあそこまで」と捉えられる目標物としても役立ちます。
この記事のまとめ
- すくみ足は不安感や暗さで出やすく、環境を整えることで軽減が期待できる
- 短い動線でも、扉・段差・支えの有無で動作の負担は大きく変わる
- 実際の改修では、身体状況・動き方・介助の有無・住まいの条件も合わせて検討する
【最後に】
住まいの中で行う動作は、日常の中では当たり前のものです。
だからこそ、その一つ一つに無理があると、気づかないうちに負担が積み重なっていきます。今回のケースも、もともとは作業場兼自宅として長く使われてきた、当時としては一般的なつくりで、これまで問題なく暮らすことができていました。
ただ、身体の状態が変わることで、これまで何気なくできていた「扉を開ける」「段差をまたぐ」といった動きが、少しずつ負担となり、夜間には危険につながる場面も生まれてきます。動作の流れを見直していくことで、「頑張らなくても使える」住まいに近づけることができます。同じパーキンソン病でも、症状の出方や生活の仕方によって、必要な整え方は変わります。
また、実際の現場では間取りやスペースの取り方によっても、ご提案できる内容や改修方法は大きく変わってきます。「今はまだ大丈夫」と感じている段階で見直すことが、安心につながることも多いです。
今の暮らしに少しでも不安を感じることがあれば、無理のない範囲で見直していくことが大切だと思います。気になる点があれば、お気軽にご相談ください。
最後までお読みくださりありがとうございました!
今のお住まいで、気になることや不安に感じることはありませんか?
どんな小さなことでも構いません。どうぞお気軽にお聞かせください。
