動作から考える住まいづくり3|キッチンと関節リウマチ:細かい動作から考えるキッチン改修の考え方

代表の得本です

このブログでは、動作の視点から住まいづくりを考える内容を、不定期で発信していきます。

実際の疾病や身体の状態をもとに、架空の住宅や生活状況を想定しながら、日々の暮らしの中で感じやすい負担やその整え方について整理していきます。

また、連載を通じて、このブログをご覧いただいた方の暮らしに少しでも役立てば嬉しく思います。

この記事でわかること

  • キッチンで負担になりやすい手指の動作
  • 「握る・ひねる・持ち上げる」がつらくなる理由
  • 痛みの波に合わせたキッチン改修の考え方

【ケース3|キッチンと関節リウマチ】

今回想定したのは、築30年ほどの都市部のマンション(3LDK)にお住まいの、ご夫婦とお子さま二人の4人暮らしのご家庭です。取り上げるのは、料理や家事のために毎日長い時間立って作業をする場所、キッチンです。間取りはごく一般的なつくりですが、身体の状態が少しずつ変わってくると、これまで気にならなかった動作が負担となって表れてくることがあります。

キッチンの間取り図
現状の間取り(キッチンの間取り図)
キッチンの現況イメージ
現状の内観イメージ

キッチンはLDKに面した対面式で、シンク・コンロ・調理スペースが横一列に並ぶ一般的なシステムキッチンです。上部には吊戸棚、下部には引き出しや開き戸の収納が設けられ、背面にはカップボードと冷蔵庫が置かれています。通路幅には余裕があり、広さそのものに不足はありません。ただしキッチンは、蛇口をひねる、ふたを開ける、鍋を持ち上げるといった細かい動作が絶え間なく続く場所でもあります。

この住まいの現状

  • 横一列に並ぶ一般的なシステムキッチン
  • 頭上の吊戸棚と足元の収納への上下動作
  • 握る・ひねる操作の多い水栓と器具

 

【現在の生活】

今回のご本人は奥様で、関節リウマチを患っておられます。関節リウマチは、免疫の異常によって全身の関節に痛みやこわばり、腫れが生じる病気です。手指や手首から始まることが多いとされますが、足の指や膝、股関節、首まわりに症状が出ることもあり、進行すると関節の軟骨や骨が傷み、変形につながることもあります。今回は、キッチンでの作業に関わる手指や手首の負担を中心に見ていきます。
機能障害の程度は初期から中等度を想定しており、身のまわりのことはご自身でされていますが、最近は以前よりも日によって痛みが出やすくなってきたと感じておられます。お料理が好きで趣味でもあるため、キッチンに立つ時間は一日の中でも長めです。

現在の状態(ADL)

  • 内部移動(歩行):自立(膝・股関節に負担を感じやすく、長く立つと不安定になりやすい)
  • 食事:自立(箸の操作にやや支障。太柄のカトラリーを使う日もある)
  • 整容:自立(指の痛みで瓶のふたなどが開けづらい。蛇口の操作にも痛み)
  • 着替え:自立(ボタンやファスナーの操作に時間がかかる)
  • 身体機能(上肢):手指・手首の関節に痛みとこわばり。朝は特に動かしにくい

 

【日常の困り事】

まず挙げられるのが、関節に痛みがある日の動作のしにくさです。同じ調理でも、痛みの少ない日にはできていたことが、翌日には思うように進まないということが起こります。

次に、立ったままの作業が続くことの負担です。関節リウマチでは全身の倦怠感や微熱を伴うこともあるとされ、下ごしらえから片付けまで立ち続けていると、疲れが残りやすくなります。

さらに、重い鍋を収納から持ち上げる、水を張った鍋を運ぶ、食器を手で洗うといった動作では、手首や指の付け根に力がかかります。これらが重なると、調理そのものよりも後片付けの方が苦痛に感じられることもあります。

スペース自体は広く確保されているキッチンですが、広さがあることと使いやすいことは別の問題です。細かい動作の回数が多い場所だからこそ、手指への負担が少しずつ積み重なりやすくなります。

△見えてきた負担

  • 握る・ひねる操作の繰り返し
  • 立ち姿勢が続く作業の疲れやすさ
  • 重い鍋や食器の上げ下ろし

【問題の本質】

一つ一つの不便を並べると、蛇口、収納、鍋、洗い物と、別々の問題のように見えます。けれども実際には、「取り出す・下ごしらえをする・加熱する・盛り付ける・配膳する・片付ける」という一連の流れの中に、握る・ひねる・持ち上げるという負担の大きい動作が繰り返し挟まっている、という構造になっています。

関節リウマチには、朝のこわばりや日による症状の波があり、左右対称に関節の痛みが出やすいという特徴があるとされています。進行すると関節の変形(スワンネック変形やボタン穴変形、尺側偏位など)が生じることもあり、力の入れ方そのものが変わっていきます。

そのため、調子のよい日に合わせて作られたキッチンは、痛みの強い日には流れが途切れてしまいます。途中で腰を下ろして休める場所がないことも、流れを続けにくくする一因になります。

つまり、「関節リウマチの進行に伴う身体の変化によって、これまで使えていたキッチンの使い勝手が少しずつ合わなくなっている」ということです。

✓ ポイント|関節リウマチとキッチン

  • 日によって変わる痛みと動作のしにくさ
  • 立ち姿勢が続くことによる疲労の蓄積
  • 進行に伴って変わっていく使い勝手

 

【改善の考え方】

キッチンの改修というと、設備を新しいものに入れ替えることをまず思い浮かべがちです。けれども大切なのは、機器を選ぶことよりも、調理から片付けまでの動作の流れを途切れさせないように整えることだと考えています。

今回のケースで整える範囲は、材料を取り出すところから、下ごしらえ、加熱、盛り付け、食卓への配膳、そして片付けまでのキッチン全体です。そのうえで、「できる動作」ではなく「痛みのある日でも安定してできる動作」を基準に考えていきます。

また、関節リウマチは症状の経過とともに状態が変わっていくことがあるため、今の状態だけに合わせて作り込みすぎないことも大切です。後から高さや収納を調整できる余白を残しておくと、将来の変化にも対応しやすくなります。

✓ 改善の方針

  • 動線を縮め、姿勢を保ちやすくする(移動と立位の負担軽減)
  • 「握る・ひねる・持ち上げる」をできるだけなくす(操作力の軽減)
  • 手の届く高さに集約する(リーチと頻度の最適化)

 

【改修内容】

動きやすくするための改修内容

  1. キッチン本体は高さを変更できるつくりとし、将来は椅子に座ったまま作業できるよう、下部をオープンにする。調味料などはキャスター付きのワゴンに収納する
  2. 食器洗い乾燥機、自動水栓、リモコンで連動するレンジフード、そして操作しやすく、軽いアルミ鍋も使えるIHコンロ(オールメタル対応)を採用する
  3. キッチン上部の吊戸棚は設けず、頭上への手の伸ばしをなくす
  4. キッチンカウンターを肘高程度で幅広にし、盛り付けた料理をそのまま置いて配膳できるようにする(重い器を持ち続けずに済むよう、ご家族の協力も前提とする)
  5. 食器や鍋などは、キッチンカウンター下のオープンスペースにキャスター付きの収納家具を置いて収め、無理なく手が届くようにする(家具は後から入れ替えや撤去ができる)
  6. カップボードはカウンター式とし、上部の棚を低い位置に設けて取り出しやすくする。あわせて調理台を広くとり、準備の際の移動回数を減らす
  7. カップボードの引き出しと冷蔵庫はタッチオープン式とし、開けるときにいちばん力のいる引き始めを軽くして、指への負担を減らす
  8. 便利な調理家電が増えることを想定し、キッチンとカップボードのまわりにはコンセントを多めに設けておく

それぞれの設備を個別に選ぶのではなく、取り出してから片付けるまでを一連の動作として整えることが大切だと考えています。

 

【改善後のイメージ】

Before

改修前の廊下イメージ

改修前のイメージ

  • △頭上の吊戸棚と足元収納への上下動作
  • △握る・ひねる操作の多い水栓と器具
  • △重い鍋の持ち運びと手洗いの負担

After

改修後の廊下イメージ

改修後のイメージ

  • ◎手の届く高さに集約した収納
  • ◎自動水栓とリモコン・IHによる操作
  • ◎食洗機と幅広カウンターで持ち運びを最小に

 

【まとめ】

今回のケースで重なっていたのは、手指の痛みによる操作のしにくさ、立ち姿勢が続く作業の疲れ、重い物の上げ下ろし、そして日によって変わる症状の波という四つの要因でした。

キッチンは、取り出す・下ごしらえをする・加熱する・盛り付ける・配膳する・片付ける、という動作がつながって成り立っています。設備を一つずつ良いものにするだけでなく、この流れ全体に合わせて空間を整えていくことで、頑張らなくても使えるキッチンに近づいていきます。

今回の改修は、パースで見比べても大きく変わったようには見えないかもしれません。けれども、水栓やコンロの選び方、収納の高さ、カウンターの幅といった細部は、動作に合わせてかなり細かく検討しています。見た目の印象よりも、実際に使ったときの負担の差に表れてくる部分です。

実際に検討した図面もありますので、どのような考え方で細部を決めているのか気になる方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事のまとめ

  • キッチンの負担は細かい動作の積み重ねから生まれる
  • 設備の入れ替えではなく一連の動作の流れを整える
  • 実際の改修では身体状況・動き方・介助の有無・住まいの条件も合わせて検討する

 

【最後に】

住まいの中で行う動作は、日常の中では当たり前のものです。

だからこそ、その一つ一つに無理があると、気づかないうちに負担が積み重なっていきます。今回のキッチンも、ごく一般的なつくりで、これまでは不便を感じることなく使えていた場所でした。

身体の状態が変わってくると、同じ動作でも負担の感じ方は変わってきます。動作の流れを一度見直しておくことで、痛みのある日でも無理なく続けられる住まいに近づいていきます。同じ関節リウマチでも、症状の経過や暮らし方によって整え方は変わってきますので、その時々の状態に合わせて考えていくことが大切だと思います。

また、実際の現場では間取りやスペースの取り方によっても、ご提案できる内容や改修方法は大きく変わってきます。「今はまだ大丈夫」と感じている段階で見直すことが、安心につながることも多いです。

今の暮らしに少しでも不安を感じることがあれば、無理のない範囲で見直していくことが大切だと思います。気になる点があれば、お気軽にご相談ください。

最後までお読みくださりありがとうございました!

今のお住まいで、気になることや不安に感じることはありませんか?
どんな小さなことでも構いません。どうぞお気軽にお聞かせください。

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補足

今回の記事では、下記のような日常生活動作(ADL)の状態を想定して内容を整理しています。

今回のケースにおけるADLの想定

今回のケースにおけるADLの想定

今回の内容は、架空の住宅や生活状況を想定した一例です。実際の改修内容は、身体の状態や住まい方、現場状況によって変わります。

       

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