小さな工務店のひとりごと 学びの話3|HCR2026で感じた、「伝わる」と「選べる」の広がり
こんにちは、ミライエ建築工房です。
先日、国際福祉機器展「HCR2026」に行ってきました。
福祉用具や住宅設備、介護の最新技術が一堂に集まる展示会で、私たちにとっては毎年の大切な学びの場になっています。
今年はセミナーにも参加し、展示を見て回る中で、時代の流れが大きく変わってきていることを肌で感じました。今回はその気づきを書いてみたいと思います。

■ 「伝えられなかったこと」が、伝わり始めている
今年いちばん印象に残ったのは、AIとコミュニケーションに関する話でした。
セミナーでは、言葉を発することが難しい重度の障害のある方が、AIに自分の考えや思想を反映させ、そのAIに代わりに発信してもらうという取り組みが紹介されていました。
膨大なデータをAIに学習させることで、ご本人の考え方にかなり近い発信ができるようになっているそうです。もちろん、ご本人が内容を確認して訂正することもできます。
ほかにも、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の方の脳波を読み取り、AIで言葉にする技術や、手話の動きをリアルタイムで解析して文字にする技術も紹介されていました。
これまで「意思の疎通」は、技術ではなかなか越えられない壁だったように思います。
それが今、少しずつ越えられ始めている。障害の当事者と、技術をつくる人、そして周りの人とのやりとりが円滑になることで、進化のスピード自体が上がっているように感じました。
一方で、個人の考えや身体のデータを扱う以上、個人情報や技術の流出など、気をつけなければならないことも多いと思います。
可能性が大きいからこそ、扱い方も問われていく分野なのかもしれません。
→小野克樹|AIで、重度障害者の可能性を広げる。
→ Project VOICE: 誰もが社会とつながる世界へ、障がい当事者自らが開発の中心に。
→思考で会話する|Neuralink
→Google DeepMind、手話を文字にする多言語AI「SL2T」
■ 「何ができるか」から「どう使うか」へ
昨年のHCRでもAI関連の展示は多くありましたが、正直なところ、まだ具体的なイメージがつかみにくいものが多かった印象です。
今年は違いました。
「現場でこう使っている」「こんな場面で役に立っている」という、具体的な使い方の話が多くなっていました。
そして、同じ技術でも使い方によって得られる結果に大きな差が出ている、ということも感じました。
道具そのものよりも、それをどう使いこなすか。
これは福祉機器に限らず、私たちの仕事にも通じることだと思っています。
■ 黒やグレージュの手すりが並ぶ時代
用品の展示で目についたのが、色の変化です。
この業界では、黒は死を連想させることもあり、長く避けられてきた色でした。
ところが今年は、黒い商材が増えていて、グレージュ系の製品や、手すりでも無彩色のものや名栗(なぐり)仕上げ(木の表面に削り跡の模様をつけた仕上げ)のものなどが並んでいました。
高齢者層そのものが変わってきていることや、人々の考え方の変化もあるのだと思います。
「使えればいい」から「見た目も気にしたい」へ。
その人が望む形で年を重ね、そのうえで病気や障害にも対応できること。
機能と見た目は、どちらかを選ぶものではなくなってきているように感じました。
■ 大がかりな工事をしなくても、変えられることがある
面白いと感じた商品もいくつかありました。
1つ目は、さつき株式会社のトイレリフトです。
トイレでの立ち座りを助けてくれる機器ですが、大がかりな工事がほとんどいらないというのが魅力でした。
工事のハードルが下がれば、必要になったときにすぐ取り入れやすくなります。


2つ目は、据え置き式のクールダウンルームです。気持ちを落ち着かせるための小さな個室空間で、置いて使えるタイプのものでした。
特に面白かったのが、その中に使われていた「オーラルソニック」という音の響きを整えるパネル。母音を聞き分けるのに大切な音を反射するように作られていて、言葉が聞き取りやすくなるそうです。
実際に展示品の中に入ってみたのですが、ざわざわした会場だったのに、中に入った瞬間すっと周りの音が聞こえなくなって、自分の声ははっきり聞こえる。
なんとも不思議な体験でした。
音の環境ひとつで、こんなにも感じ方が変わるんやなぁと実感しました。
3つ目は、チェーンウェイターという段差解消機です。
高さ4m以内の設置で、上下階の移動ができるとのこと。
ポイントは、「昇降機」ではなく「段差解消機」という扱いであることと、建物の構造と一体で考えなくてよいところ。既存の住宅に後から取り入れることを考えると、これはとても大きいです。
ただ、建築士の目線で見ると、災害時のことには少し不安が残ります。
もし実際に採用が必要になったときは、そのあたりをじっくり検討したいと思っています。
→調音パネル「オーラルソニック」
→段差解消機「チェーンウェイター」
そしてもうひとつ印象的だったのは、会場で車いすに後付けの電動装置を付けて移動している方が、かなり多くいたことです。
昨年のHCRでたくさん展示されていたものが、もう実際に使われている。採用されるまでのスピードの速さに驚きました。

住まいを変える方法は、工事だけではありません。
用具や機器で補えることが増えれば、そのぶん、住まいの側は「変えやすさ」を備えておくことが大事になるのだと思います。
■ おわりに
私たちが目指しているのは、バリアフリー、そしてアダプタブル・デザインです。
ちょっと聞き慣れない言葉かもしれませんが、簡単に言うと「暮らしや体の変化に、あとから合わせやすい家」のことです。
→アダプタブルハウジングとは(障害保健福祉研究情報システム 用語解説)
年を重ねても、病気やケガをしても、その時その時の自分に合わせて住まいを変えていける。
見た目も含めて、その人が望むカタチを選べる。
そういう家が、一生涯あんしん・あんぜんに暮らせる住まいにつながるんじゃないかなと思っています。
そのためには、日々の学びを忘れてはいけないなと、ふっと思う事があります。
最近は、展示会やセミナーで新しいものを知るだけでなく、障害の当事者の方と直接お話しすることも大事だなと感じています。
これはたぶん、ここ何年かの私たちのテーマになりそうです。
今回のHCRでは、伝える方法が増えていくこと、選べるものが増えていくことを、あちこちで感じました。
新しい技術や道具も上手に取り入れながら、その人に合った暮らしのカタチを一緒に考えて、カタチにしていく。
そんな役割を、これからも地道に続けていきたいと、あらためて思えた一日でした。

持ち帰ったたくさんのカタログを見返しながら、これからの住まいづくりに何を活かせるか、じっくり考えていきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
■ ちょっと寄り道|東京国立博物館
せっかく東京まで来たので、友人と一緒に東京国立博物館にも足をのばしました。
庭園の茶室巡りと、本館を見て回りました。
この日はよく晴れていて、庭を歩くだけでも気持ちのいい時間でした。
柱や建具、細かな納まりのひとつひとつに職人さんの技が詰まっていて、数寄屋建築ってやっぱりすごいなぁと、何度も足を止めて見入ってしまいました。
学生の頃から数寄屋建築を見るのは好きなのですが、毎回「すごいなぁ」で終わってしまうのが正直なところです…(汗

本館では、なんといっても大階段に圧倒されました。
写真で見るのとはまったく違う迫力で、今これを建てようとしたら、どれほどの費用と手間がかかるんだろう…と、つい考えてしまいました。
普段はそれほど建築巡りをする方ではありませんが、たまにこういう場所を訪れると、建築の持つ力をあらためて感じます。

